インスタントコーヒー 2g+140ml


 加 藤 良 一

2017年9月14日




 あるコーヒーのテレビコマーシャルに、有名シェフが自ら経営するレストランで「うちでは食後にインスタントコーヒーを出す」とコメントしているものがありました。それぐらい本物に引けを取らないということらしいです。エーッ何をおっしゃる
と聞き流していました。
 これまでインスタントコーヒーは豆から抽出したコーヒーにはしょせん遠く及ばないものと思い込んでいました。そうはいいながら、コーヒー好きとしては、もしやひょっとしてそんなこともあるのだろうかと気になっていました。実感してみないことには疑問は解けませんから、とにかく比べてみることにしました。

 その結果、どうやらあのコマーシャルもあながち嘘ではなさそうだ、インスタントが相当な勢いで本物の豆に近づいてきたと思うようになりました。

 インスタントコーヒーが進化していることにお気づきでしょうか。
(予めお断りしておきますが、私はメーカーの回し者ではありません


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ふだん我々の手に入るコーヒーには大きく別けるとつぎのような種類があるようです。
1. レギュラーコーヒー:コーヒー豆そのもの、とはいえふつうは焙煎済みで売られています。
2.ドリップコーヒー:焙煎した豆を適当な大きさに挽いたものです。これには1杯分ずつ小分けされフィルターに入れられたものなどさまざまあります。
3.インスタントコーヒー:溶かすだけで簡単に飲める粒状コーヒーです。
4.ボトルコーヒー:すべて調製済みで缶やボトルに充填されたコーヒーです。濃縮ポーションタイプもこれに含まれるでしょうか。

 今回のテーマであるインスタントコーヒーの製法には、大きく分けてスプレードライフリーズドライの二種類があります。ところが、何故かどのメーカーもラベルにとくに製法については記載していません。

 スプレードライは、抽出したコーヒー液を高温の雰囲気の中に噴霧して熱で乾燥させ、その後微粉化します。いわゆる熱風乾燥です。装置も比較的簡単で大量生産に向いています。ただデメリットとして加熱によって香味成分を失いやすいという欠点があります。
 フリーズドライとは、真空凍結乾燥のことです。抽出したコーヒー液をマイナス40以下で凍らせた後に細かく砕き、真空状態にして水分を取り除く方法です。凍み豆腐あるいは高野豆腐の作り方と似ています。

 氷(個体)を温めると水(液体)となりさらに加熱を続け沸騰すると水蒸気(気体)となります。スプレードライ弱点を補い、香味成分を閉じ込める手段として開発されたのが真空凍結乾燥です。この製法は装置が高価で大量生産向きでないためコストが相当高くなります。
 氷を超低温下で超真空状態にすることで、氷を液体の水の状態を通らずにいきなり気化させてしまうことができます。この過程を昇華と呼んでいます。つまりコーヒー液を低温のままで乾燥することができます。これにより大切な香味成分を逃さずに製造することが可能なのです。
(余談ですが、食品の凍結乾燥装置は、精密な乾燥条件が要求される医薬品用の装置とはかなり精度が違いますので、装置価格もそれなりに安いです。)

 フリーズドライしたコーヒーは、スプレードライに比べて(氷を砕いているので)大きな粗い粒子状となります。製品をみればすぐに判別できると思います。
 このような製法上の違いがあるため、スプレードライよりフリーズドライ製品の価格は高めになってしまいます。それぞれの特性を知って、店頭に並んでいる製品を見ると、値段がピンからキリまであることの理由が納得できると思います。ラベルに製法までは書かれていないので、粉の形状をよく見て区別する必要がありますね。
 たとえば、AGFでは、フリーズドライは「マキシム」、スプレードライは「ブレンディ」というようにブランド名で区別している場合もあります。


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 先日、思い立ってインスタントコーヒーと豆から挽いたレギュラーコーヒーを飲み比べてみました。
 先ずは、どこでも手に入るような中級品の真空凍結乾燥品をメーカーの推奨する飲み方に従って淹れたものと、同じく中級品の挽いた豆をペーパーフィルターでろ過したレギュラーコーヒーの二種類を同時に用意しました。コーヒーの種類は異なっています。

 メーカー推奨の淹れ方とは、私の知るかぎりではどのメーカーも同じで「2gをお湯140mlに溶かす」のが基準のようです。2gティースプーン山盛り1杯が相当します。推奨方法を無視してテキトーに作ると最適な味が再現されないので要注意です。

 インスタントは、2gを正確に量り取り、沸かしたてのお湯をきっちり140ml加えました。かたや挽いた豆は既定のスプーン1杯で計量し、常法に従ってドリップしました。カップは同じものを用いたことは当然です。

 いざ、この二種のコーヒーを交互に飲み比べてみました。

 私の味覚、舌はさして自慢できるものではないので、ほんとうに違いが分かるのかと思いながら飲んでみました。ところが、いざ飲み比べてみるとその旨さにあまり差がなかったのです。これは本当に意外なことでした。(もしかしたら何を飲んでも違いが分からなかったのではないか? ということも否定はできませんが…)

 メーカーが推奨する1杯分「140ml」は思いのほか少ない量です。家庭で使うふつうのカップの6分目ほどにしかなりません。以前の作り方では、同じカップで8分目までお湯を加えていましたから、そもそもコーヒーの粉が足りなかったわけです。薄目の味が好みではあるのですが、最適の淹れ方から外れていては元も子もないですね。そんな淹れ方をしていながら、インスタントは旨くないとか思っていたんです…(‘;’)

 インスタントコーヒーレギュラーコーヒーに近づいてきたことは目を見張るべきです。そうはいいながらも嗜好品ですから、自らコーヒー豆をカリカリと挽き、じっくりと時間を掛けて抽出する過程を楽しみたい方にはどうでもいいことと思います。




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