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ロダンの彫刻《接吻》を観る



そのヌードには、秘密がある







加 藤 良 一

2018427
 


 横浜美術館で開催中の展覧会を鑑賞しました。テーマは「ヌード」。

 西洋美術の殿堂、英国・テートTateの誇るコレクションから、ヌードの変遷をたどることができる展覧会です。英国・テートとは、サー・ヘンリー・テートの名をとったもので、イギリス政府の持つイギリス美術や近現代美術のコレクションを所蔵し管理する組織で、各地の国立美術館を運営しています。

「ヌードは西洋芸術の永遠のテーマでありながら、それを切り口とした大規模な展覧会は前例が多くありません。本展は、この難しいテーマを紐解き、ヴィクトリア朝から現代までの約200年におよぶヌードの歴史を辿ります。」


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 ヌード展では、絵画、彫刻、版画、写真など130点あまりが展示されており、ミレイやレイトンはじめ、ルノワール、ドガ、マティス、ロダン、さらにピカソ、ベーコンなど、世界的な巨匠たちによるヌード作品が一堂に会していました。中でも圧巻だったのは、オーギュスト・ロダンの代表作<接吻>の大理石像です。今回が日本初公開です。

 展示作品はなぜかすべて写真撮影禁止ですが、特別室に展示されたロダンの<接吻>だけは唯一フラッシュを点けなければ撮影OKとなっていました。大理石だからでしょうか。海外では絵画でも自由に撮影できるのにくらべ、日本はずいぶん厳しいですね。

 ロダンの<接吻>は「最もエロティック」な彫刻とも言われています。高さ180 センチ、重さ3トンもある大理石像で、世界に3体しかないそうです。


 

 


 <接吻>像の周りを幾度か回っていろいろな角度から観てみました。彫刻は三次元ですし周囲360度から観られることを意識して制作しているのでしょうが、やはりそこには「正面」というものがあります。そのことが今さらながらよくわかりました。

 エロティックとかエロティシズムについては、さまざまな見方や考え方があり、まさに哲学の一大命題でしょうか。詳しく論ずる任にはないのでこれ以上は触れませんが、いずれにしても「身体」と密接に関連した表現手段です。

 ヌードは、人間にとって最も身近なテーマです。美の象徴、愛の表現として、ヌードはいつの時代にも永遠のテーマとして扱われてきました。芸術かあるいは猥褻かとセンセーショナルな話題に巻き込まれたり、批判の対象になったりした作品は数多ありました。これは絵画や彫刻にかぎらず、文学作品においても同じことですが。

 ロダンが最初に制作した<接吻>は、高さ74cmの銅像でした。1893年にシカゴの万国博覧会に出展しましたが、男女が全裸で抱擁し接吻するさまが公序良俗に反するとされて展示を断られ、一部の者のみが別室で鑑賞を許されたといいますから、時代はずいぶん変わったものです。


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 横浜美術館は、丹下健三都市建設設計事務所の設計によるもので、元は1989横浜博覧会のパビリオンとして開館し、博覧会終了後そのまま美術館へと移行しました。


 



 みなとみらい
21地区に位置し、みなとみらい駅からすぐ目の前にありアクセスがとても良い美術館です。



 


 シンメトリーな外観で、正面入り口を入るとそこは大きな吹き抜けとなったグランドギャラリーとなっています。国際的な港町横浜にふさわしい美術館です。国内でも大きな規模を誇っており、横浜が日本の写真発祥の地であることから写真部門に力を入れているのが特徴でしょうか。
 館内も広々しており、ゆったりと作品を鑑賞できる空間です。美術館に一歩踏み込んだ瞬間、その大きな吹き抜け空間に、おやどこかで見覚えのある造りだなと感じました。それもそのはずで、この美術館はパリのオルセー美術館が元になったということでした。オルセー美術館は、もともと鉄道の駅舎兼ホテルでしたが、取り壊しの話もあったものの、その後改修して19世紀美術を展示する美術館に生まれ変わりました。ですから、あちこちに駅舎の面影が残っています。

 これはちょっと余談ですが、以前家内とオルセーを訪れたときのことです。その日は日曜でした。ホテル前に停まっていたタクシーにオルセー美術館へやってくれと声を掛けると、運ちゃんがなにやらブツブツ言ってきました。フランス語はわからないので、とにかく乗り込むと、走り出してもまだ何か喋っています。事情がわからないままとにかく美術館に着きましたが、その後わかったのは日曜は美術館周辺が車両侵入禁止になっていたということでした。運ちゃんは警察が来たら困るとヒヤヒヤしながら走っていたようなのです。知らぬが仏とはこのことでしょうか。困った日本人ですね、チップもさしてはずんだわけでもないので、運ちゃんには申し訳ないことをしたと思います…

 横浜美術館を出て右手へ数分も歩くとそこはもう横浜港です。帆船日本丸が係留されていました。


 



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