ES-4


   科学コラム Science column


栄 養 学 が 変 わ っ た

 



 私の仕事の領域でも、少しずつ、考え方や指導方針が変わります。先日、健康・長寿研究談話会という集まりで、日本栄養士会の名誉会長・中村丁次氏の講演を聞く機会がありました。そこで、改めて栄養学が変わった、と認識させられましたので、二三の話題を紹介します。

1.「食事は腹八分」という栄養指導は間違いだった!
 「食事は腹八分」という栄養指導は間違いだった・・・これは中村先生の言葉です。痩せと肥満で、どちらが長生きをするか? 高齢者を対象に疫学調査をすると、統計上、痩せの方が早く死ぬそうです。だから、「歳をとったら、食事は腹八分目にしなさい」というこれまでの栄養指導は間違っていたと言っていました。
 但し、中高年は肥満を防ぐためにも、腹八分を心がけることが必要とのこと。一方、高齢者(多分、65〜70歳以上の人を指す)では、食事制限をする必要はないとの話でした。

2.「高齢糖尿病患者」でも食事制限は不要
 同講演の中で、糖尿病患者についても触れていましたが、糖尿病患者であっても高齢ならば、血糖を下げるため、ご飯を制限して痩せるのは間違っているとのことでした。HbA1c(正常値4.2〜6.2)が8を超えるのは合併症を起こしやすくなるが、7を越える程度であれば、食事制限で痩せるよりは、普通に食べて、薬を飲む方が良いと言っていました。
 私はそれを聴いた時、「 栄養学が変わった」と思いました。だって、これまで日本の栄養士会を先導してきた方ですよ、中村先生は
本職の食事指導をするよりも、「医薬品で血糖をコントロールしなさい」と言うのですから、面白いと思ったわけです。確かに、今は薬が良くなって血糖のコントロールが大変うまく行くようになっています。食事制限にこだわって、ガリガリに痩せるのは止めましょう。

3.何が栄養学を変えたか
 それは、私たちの目標が「平均寿命の延長」から「健康寿命の延長」に変わったから。単に長生きをすれば良いのではなく、寝たっきりにならず、極力、他人の世話にもならずに生活したい、と考えるようになったからです。
 「生活習慣病」の予防だけではなく、「介護予防」という新しい考え方も浸透しつつあります。高齢になっても「介護」に頼らなくて良いように、私たちは、日頃から「寝たっきり予防」、「介護予防」を心がけましょう。


  近年、厚労省も「高齢者は少し太めがよい」と指導しています。痩せが問題なのは、低栄養になるからです。高齢になればなるほど、食は細くなります。体調のちょっとしたことが原因で食欲が低下する。あるいは加齢による味覚の変化や、咀嚼・嚥下障害、消化吸収の機能低下など、いろんなことが遠因となってフレイル(低栄養状態)になります。このような状態になることが、「介護」を必要とする原因ですから。
 介護予防とは、しっかり食って、飲んで、歩いて、笑って、今日の大切な一日をゲンキに過ごすことです。


       参考資料: https://www.almediaweb.jp/news/ac20160719_01.html 


            


 フレイルとは、海外の老年医学で使われているFrailty(フレイルティ)に対する日本語訳です。日本では「虚弱」、「老衰」、「脆弱」などとなります。日本老年医学会は高齢者に起こりやすいFrailtyに対し、正しく介入すれば戻ることを強調したかったため、「フレイル」と共通した日本語訳にすることを2014年に提唱しました。

 フレイルは、厚生労働省研究班の報告書によれば、次のように定義されています。
 「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」

 つまり、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。多くの人は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢者においてはとくにフレイルが発症しやすいことがわかっています。

 高齢者が増えている現代社会において、フレイルに早く気付き、正しく介入即ち治療や予防をすることが大切です。


 

2018年7月20日



 島ア弘幸TOPへ      Home Pageへ