K-45

言葉遊びで頭の体操
立ち入り句




新 祖 章
SHINSO Akira

2018216
201611日申年の年頭にあたり認めたものです)




 明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。
 新春に当たってとっておきの話を一つ。

 駄洒落や回文など言葉遊びの一種に「立ち入り句」というのがある。同種の言葉を並べて作った句や文のことであるが、例えば有名なところでは、


   酒 醒 め た ら 来 い

というのがある。
 これは「鮭鮫鱈鯉(さけ、さめ、たら、こい)」ということですべて魚の名前を並べることによってできている。しかもそれ以外の言葉がない。こういうのを完全立ち入り句という。

   秋 の 蚊 が 吸 お う と す る が 身 の 終 わ り

というのも、その世界では有名な立ち入り句。
 これは「安芸(あき)の加賀(かが)周防(すおう)と駿河(するが)美濃(みの)尾張(おわり)」ということで旧国名を繋ぎ合わせたもの。ただ、「の」とか「と」とかの助詞を入れないと句ができないので、完全立ち入り句ではなく、普通の立ち入り句である。

 ところで、今年は申年だが、十二支に絡んだ完全立ち入り句がある。

   馬 逝 ぬ 日 辻 立 つ 憂 し と 雷 雨 峰

 馬が死んだ日に、辻に立って悲しんでいると向こうの峰に雷雨が落ちたと、こじつければこんな意味になろうか。

 これは「午(うま)戌(いぬ)未(ひつじ)辰(たつ)丑(うし)寅(とら)亥(い)卯(う)巳(み)子(ね)」ということで十二支中十支を盛り込んだ完全立ち入り句になっている。
 この句のすごいところは、それにとどまらない。
 十二支は「ね、うし、とら、う、たつ、み、うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、い」と21文字。それに対し、この立ち入り句はもともと川柳としてつくられたものなので17文字となる。
 そこで作者が省く干支に選んだのは申(さる)と酉(とり)。つまり、この二つの干支を取り去る(とり、さる)と、こういう落ちまで付け加えた。さすがというほかはない。
 今年は取り去られた一つの干支、さる年というわけだ。

 お粗末様でした。m(__)m



<管理者からひと言>
◇新祖章氏は、現在全日本合唱連盟関東支部事務局長に就任しており、前埼玉県合唱連盟副理事長および前埼玉第九合唱団団長を歴任するなど合唱に長い間係わってこられました。氏は、言葉にとても高い関心をお持ちの方です。ふだんから回文をはじめいろいろ創作しておられるようです。

◇今回ご紹介頂いた「立ち入り句」は、あるテーマに関連した言葉を折り込んで一つの文章に仕立て上げるものです。
日本語は、英語などの外国語と比較すると、音節が明瞭だから古来よりたくさんの言葉遊びが生まれています。たとえば、上から読んでも下から読んでも同じになる「竹藪焼けた」のような回文には子供の頃から親しんできました。
 音節(シラブル)とは、連続する言語音を区切る分節単位の一種で、一つの母音を中心に、その母音単独で、あるいはその母音の前後に一つまたは複数の子音を伴って構成する音声で、音声の聞こえのまとまりをいいます。

◇ところで、言葉を折り込んでいるのになぜ「立ち入り句」と呼ぶのか、初めて聞いたときは見当がつきませんでした。「折り込み句」とでもしたほうががピンとくるような気がしますが、かたや名前の頭文字をとって句をつくる「折り句」というのもあるのでややこしくなるからでしょうか…。    (加藤良一)


 


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