K-46
折 句
お り く
加 藤 良 一
2018年3月29日
近ごろ「名前の詩」というのが流行っています。誕生日などのお祝いに贈るもので、ネットで扱っている業者がたくさんあります。名前の頭文字一字ずつにそれぞれ思いを込めた文章を綴り、イラストを加えたりして全体を楽しくレイアウトし額に入れて贈ります。まあ、詩というほどの内容にはなりませんが、世の中に二つとない贈り物になるようです。けっこういい値段で売られています。
「名前の詩」の原型に当たるのは言葉遊びのひとつ<折句>でしょう。折句の歴史は古く、有名なものでは、平安時代に在原業平が詠んだ句があります。
から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ
これは本来右から左に書くものですから
ふ思ぞしをびた るぬきるばるは ばれあしまつ しにれなつつき 衣らか
となります。
この句はつぎのように「かきつばた」を頭に折込んだ句です。
また、松尾芭蕉のかの有名な俳句にも「ふかみ」という文字が折り込まれています。ただし、もともと折句として詠んだかどうかは不明らしいですが…
旅
を
し
ぞ
思
う
ふ
は
る
ば
る
き
ぬ
る
妻
あ
れ
ば
き
つ
つ
な
れ
に
し
か
ら
衣
水
の
音
蛙
飛
び
込
む
古
池
や
「名前の詩」は要するに「折句」の現代版ですね。
家内の母親が平成30年2月に95歳の誕生日を迎えました。何を贈ったら喜ばれるだろうか、もうあれこれ物を欲しがるわけでもありませんし、花やお菓子などありきたりの贈り物くらいしか思い当たりません。衣類は好みもありやや難しい……と、そこで思いついたのが、「名前の詩」でした。
家内は早速、母親の名前、三宅秀(みやけひで)の文字にそれぞれ言葉を当てながら紡ぎました。ああでもないこうでもないと、推敲することしばし。ようやく原案が出来上がったところで、つぎはそれを筆で手書きしましたが、ふつうの書のようにきれいに整った字では味わいが出ないと、わざと下手に書く(?)という気の入れようでした。
最後はデザインやレイアウトの工夫です。そこは私の担当となっていました。つまり家内が作家で私は出版社のデザイナーというわけです。
コンテンツ・デザインの専用ソフトPhotoshopの出番です。これを使うとかなりのことが容易にやれます。ただし、習熟するにはそれなりに時間がかかります(実際かかりました…)が、慣れてしまえば細かな部分も好きなように作成できるところがこのソフトの大きな魅力です。
作家さんからの依頼で何度手直ししたことでしょうか。ようやく出来上がったのがこれ↓です。これを受け取った山形の母親はことのほか喜んでくれたようです。家内は苦労が報われ、得意満面だったことは言うまでもありません。