若手作曲家西下航平さんの合唱作品のみを集めたコンサートが行われました。
「西下航平合唱作品の夕べ実行委員会」委員長の野口享治さん(「埼玉県合唱祭で〇〇をうたう会」で出演)は、わが男声合唱団コール・グランツの主要メンバーであることもあって、当日はわが団の定例練習を休みにしてメンバー揃って駆けつけました。
このコンサートは、『新進気鋭の若手作曲家西下航平さんの合唱作品たちに6つの合唱団がいま生命を吹き込む』をキャッチフレーズに個展として開催されたものです。
西下航平合唱作品の夕べ
・2017年3月25日(土)
・川口総合文化センター・リリア 音楽ホール
・主催:西下航平合唱作品の夕べ実行委員会
・共催:セイコーインスツル株式会社
・後援:カワイ出版・Miela Harmonija・東京音楽大学
埼玉県合唱連盟・所沢市合唱連盟・狭山市合唱協会

Program
名前のない合唱団 指揮:平田由布 ピアノ:吉田太郎
夕焼け雲の天使(作詩:みなづき みのり)
混声四部合唱とピアノのための みみず(作詩:つるた やよい)【委嘱初演】
たねをうえたら(作詞:内藤学)
益楽男グリークラブ 指揮:北風秀和
出発(たびだち)(作詩:KIN)
運命(作詩:益楽男グリークラブ)
再会(作詩:KIN)
あるしす 指揮:磯野隆一 ピアノ:大津直子 リコーダー:大塚照道
混声合唱、リコーダーとピアノのための組曲 天使の横顔(作詩:谷川俊太郎)
T 天使、まだ手探りしている
U 泣いている天使
V 哀れな天使
W 希望に満ちた天使
X 老いた音楽家が天使のふりをする
Y 鈴をつけた天使
女声合唱団「虹」 指揮:田中豊輝 ピアノ:赤星裕子
女声合唱とピアノのための「風景」より 「ゆき」(作詩:つるた やよい)【初演】
同 「はな」(作詩:つるた やよい)【初演】
埼玉県合唱祭で〇〇をうたう会 指揮:磯野隆一 ピアノ:河南ひろみ
男声合唱とピアノのための組曲 海に(作詩:吉野弘)【組曲初演】
1.真昼の星 (2016)
2.鏡による相聞歌 (2013)
3.釣り (2015)
4.海に (2011)
5.母 (2016)
過去の演奏記録 https://www.youtube.com/watch?v=PRMJ66px67k
西下航平さんは、作品「海に」に寄せる思いを、2012年4月、「埼玉県合唱祭で吉野弘をうたう会」への寄稿文で次のように語っています。
海は私達の住ませて頂いている地球が地球たり得る所以の一つである。
「母なる海」とはよく言ったもので、私達は海に包容されている。
私達から見た海とは地球という星全体を包む全ての大きな流れの終着点であり、海からの流れは私達には不可視である。ということがこの詩の第一節に表れているように思う。そして行き場を失った海は「自分自身とまじり合」い、「撹拌に倦んで」いくのだろう。
私がこの詩を選び、曲をつけるにあたり、言葉の「語感」、「語義」、そして何よりも「海の持つ包容力の表現」に重点を置いた。精緻なハーモニー作りや言葉のリズム感の保持は高いレヴェルで要求されるが、そのために委縮することなく、堂々と海のように包容力のある演奏をすることが望ましい。
もちろん“Drammaticamente”(※)で「自分自身とまじり合う」海、うねる海、流れの終着点の海を表現することも重要である。バリトンソロは父のように(とは言っても私はまだ父の気持ちを知るには幼すぎるが)、テノールのソロはそれに呼応する息子のように、どちらも高らかに歌い上げてほしい。全体には、自分が海と同化したつもりで演奏して頂きたく思う。
最後に、この詩を使用するにあたり快く許諾してくださった吉野弘氏、指揮をしてくださった磯野隆一さん、その他演奏に関わってくださった全ての方々に、心から感謝いたします。
※ドランマーティカメンテ(イタリア語):「劇的な」
西下航平さんのプロフィールや作品については下記の《Official Site》をご覧ください。
https://www.compose-kohei-nishishita.com/
今回のプログラムのなかで、実行委員長野口享治さんは、西下航平さんが《海》というコンセプトのもとで順次創作を積み上げられて組曲に仕上がったことに触れています。
「男声合唱とピアノのための組曲 海に」は、最初から組曲を創ろうと思って創られたものではない。
東日本大震災をそれぞれの場所で、立場で経験し、働き方改革なぞ脇に置いてがむしゃらに今と向き合ってきた私たち社会人が、「今しかできないこと」と「今の思い」を正面から向き合いたいという強い願望に対し、西下さんから吉野弘さんの詩に乗せて毎年一つひとつかなえてくれた贈り物の集まりである。(……)
野口さんは、コンサートの成功に安堵しながらも、西下さんの今後の活躍に期待を寄せています。
みなさまのおかげで観客動員もなんとか400名を超え、個展企画としては、なんとか恥ずかしくないような動員になりました。西下さんが、これからプロの音楽家とやっていくのに、ふさわしいお祝い企画となったと自画自賛しております。
西下作品の感想ですが、私がこれまで歌ってきた合唱作品とはちょっと違うハーモニー感をもった作品です。不協和音バリバリの現代曲ということでもなく、奇をてらったものでもないけど何か新しいものを感じさせるものです。
(これは、最初に、信長貴富さんや、木下牧子さんの作品をうたったときに感じたものと似ています。)
我々が歌った、組曲『海に』も、さまざまな合唱のテクニックを必要とされますが、お世辞というだけだはなく、これまでもいろいろな団体から、次回演奏会で取り上げたいというお声がけもいただいているので、現代の合唱団に歌いたいと思わせる旋律や構成(壮大であり、繊細)をもっていることは間違いないと思います。
西下さんは編曲も結構いけるので、なにかテーマを決めて編曲委嘱するなんていうことに大いに期待に応えてくれる作曲家だと思います。
『海に』とアンコールで歌われた西下航平編曲「朧月夜」を歌ったあるメンバーはつぎのような感想を漏らしていました。
全体として、メロディが流麗、ピアノの旋律が効果的、和音のレンジが広い、平易な和音が多いがところどころ印象的な音があるいっぽう、小編成では厳しい、最低パートに3〜4人は必要。経験の少ない指揮者でもおそらく、それなりに音楽が流れる。作曲家としての大成を期待しています。

ところで、磯野隆一さんが主宰する埼玉県合唱祭で〇〇をうたう会は、1989年に発足した団体で、毎年6月に行われる埼玉県合唱祭に出演するためだけにメンバーを募る季節合唱団です。「〇〇」に演奏曲名や作曲者、作詞者などを入れるので、毎年変わります。ですから「うたをうたうとき」という曲を歌った合唱祭では「埼玉県合唱祭でうたをうたうときをうたう会」となってしまいました(‘;’)。
私も2010年、この会が所沢市民合唱祭で、廣瀬量平作曲『五つのラメント』より「Volga」を演奏したときにオンステしました。いくつかの合唱団からメンバーがその都度集まるので、つねに新鮮ですし、短期間で仕上げねばならないので緊張感もある楽しいグループです。そんな季節合唱団が、今回のコンサートでは「埼玉県合唱祭で…」の範疇を越えた取り組みとなりました。
西下航平さんは、多くの共感者や支持者を得て、さらに作曲活動に邁進できることと思います。愛される曲、永く歌い継がれる曲、そしてできれば男声合唱曲もたくさん手掛けてほしいと願っています。
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