合唱団 お江コラリアーず

16回演奏会

加 藤 良 一   2017年9月21日  



 2017812日、文京シビックホール・大ホールにおいて、指揮者・山脇卓也氏率いるお江戸コラリアーず(お江コラ)の定演を聴きました。

 お江コラは、関西で活動していたなにわコラリアーズのメンバーが東京に転勤したため、19984月に東京で新たに立ち上げられた男声合唱団です。
 なにわコラリアーズの音楽監督・伊東恵司氏のひと言「関西がナニワやから、東京はお江戸でしょ」からお江戸コラリアーずと命名されたそうです。あらためて多くを語る必要はありませんが、お江コラはいまや押しも押されもせぬ男声合唱団です。
 今回のオンステメンバーは、トップテナー24、セカンドテナー22、バリトン22、バス20、総勢88人という圧巻の布陣でした。ふつうの合唱団の34倍はありますね。

 演奏会のプログラムやフライヤーのデザインを検討するにあたり、お江コラのコンセプト<螺旋的成長>をメインテーマに据え、「人と人を繋ぐ線を成長と置き換えて、蔓(つる)のように螺旋を描きながら、どこへ伸びようとしているのか分からない木のようなオブジェクト」のデザインを採用しました。


◇今回はOpening2nd Stage 以外はさまざまな外国語という4ステージ構成でした。
 Opening:無伴奏男声合唱曲「今、ここに」
  (作詩:伊藤玲子、作曲:松下耕)

1st Stage:トルミス男声合唱作品から
  Varjere,Jumaia,Soasta」(神よ、我々を戦いから守りたまえ)
  Muistse Mere Laulud」(古代の海の歌)
  (作曲:ヴェリヨ・トルミスVeljo Tormis

2nd Stage:男声合唱とピアノのための「感傷的な二つの奏鳴曲(ソナタ)」
  (作詩:金子光晴、作曲:高嶋みどり)
  T. くらげの唄
  U. 落下傘

3rd Stage:「The Four Faces of Love」<初演>
  (作曲:ジョン・オーガスト・パミントゥアンJhon August Pamintuan
  T. Eros
  U
. Storge
  V. Philia
  W. Agape

4th Stage:アラカルト
  Listen to a Jubilant SongAtarsBaba Yetu/Go the Dstance

 
1ステージ
 今年1月逝去したエストニアの作曲家ヴェリヨ・トルミスに因んだステージでした。
 1曲目の「Varjere,Jumaia,Soasta」は、フィンランドの民間説話集「カンテレタール」にもとづいた、祈りにも似た語り調の歌声が、地の底から湧き上がってくるように繰り返され、そこへ重厚な銅鑼の音が加わります。曲は次第に盛り上がり、銅鑼の強打とともにクライマックスを迎えます。
 つづく「Muistse Mere Laulud」では、海にまつわる様々なエピソードを歌い上げた曲です。ヴォカリーズから始まり、ソロがあったり、鳥の鳴き声が入ったりと合唱の様々な表現が駆使されています。

 第1ステージはコンサート案内の時点では、三宅悠太氏作曲の「祈りの海」の委嘱初演となっていましたが、急きょ変更されました。そのためチケットの払い戻しにも対応する旨の連絡がありました。しかし、その程度のことでは聴きに行かない理由にはなりませんでした。

2ステージ
 高嶋みどり氏の「落下傘」は、コンクールの自由曲としてもよく採りあげられる曲でお馴染みです。詩人金子光晴が第二次世界大戦の真っ只中(1944年)に書いた反戦歌でもあります。今回は初演時の「二つの奏鳴曲」として演奏されましたが、2015年に「おっとせい」が1曲目に追加され「三つの奏鳴曲」と改題されました。

 高嶋氏はこの曲について、<歌うことが楽しく美しい作品>として捉えて頂きたくないと楽譜の冒頭に書かれています。「歌う」という行為を通して、「考える」ための作品であり、歌うことによって実存すること=生きていることをもう一度自分に問い直すための作品だというのです。

 演奏時間8分弱ほどの中で、とにかく次々と拍子が変わるなかなかの難曲です。ピアノもハードな演奏を求められます。急降下する落下傘、青天に漂うパラソルの頼りなさ、“美しき楽土=日本人としての生活”へと辿り着きたいと願う焦燥と不安をみごとに表現しています。
 冒頭の4/4から始まってすぐに4.5/4に変り、その後は3.5/44/45/87/83/85/83/42/46/45/43/4などが目まぐるしく入れ代わり立ち代わり出てきます。かなり時間を掛けて練習しないと歌えないのではないかと思います。

 さらにこの曲は、コンクールなどで演奏時間の制限があって短縮しなければならない場合には、630秒以内にするなら「開始小節から14小節までを、半音低く演奏、1568小節をカット、…」、同じく5分以内ならこうと、作曲家がこと細かに指定している点が特徴的です。極めて特殊な曲ではないでしょうか。

 お江コラは大人数でありながらよく統制された表現力で歌いきっていました。お江コラの強みは、正指揮者の山脇卓也氏に加え副指揮者として村田雅之氏を擁することです。このステージは村田氏が指揮されました。

3ステージ
 このステージでは、フィリピンの著名な作曲家ジョン・オーガスト・パミントゥアン氏からプレゼントされた「The Four Faces of Love」が初演されした。
 氏は
2013年にお江コラの演奏を聴き、その歌声や演奏技術に感動したことが、今回のプレゼントにつながりました。四つの愛とは、家族愛、友愛、性愛、神の愛のことを指し、対照的な愛の形と調和の物語を表現しているとメッセージで述べています。

 この作曲家はたいへんな親日家です。以前私が男声合唱をやっていることを伝えたところ、いきなり彼からまとめて楽譜が届きました。いずれも日本ではあまり見ない編成の曲ばかりでした。
 たとえば、
Crucifixus」:上からトップテナー(T1)、バリトン(Br)、セカンドテナー(T2)、バス(Bs)という並びの4声部
Saging Tundan」:同じく上からテナー(T)、TTBsBs5声部
Ama Namen」:T1T2、サードテナー(T3?)、BrBs5声部
とさまざまな編成を駆使しています。
 いっぽう、「Alma De Cristo」のようにT1T2BrBsというふつうの並びの4声部もあります。どれも自由に歌ってくれとのことでしたが、いまだに歌う機会が訪れません(‘_’)

 お江コラのために書かれた「The Four Faces of Love」は期待に反してよくあるふつうの4声部でした。

4ステージ
 すべて外国語のアラカルトステージ、山脇卓也氏と村田雅之氏が交互に指揮されました。お江コラの蓄積されたレパトリーとその実力が如何なく発揮されました。とくに「Baba Yetu」では、会場後方から目等貴士氏が打楽器を叩きながら入場する演出にはどよめきが起こり、迫力ある演奏を聴かせてくれました。

アンコール
  「群青」
 作詞/福島県南相馬市立小高中学校平成24年度卒業生(構成・小田美樹)
 作曲/小田美樹 編曲/信長貴富
 指揮/山脇卓也 ピアノ/村田雅之


 「群青」は、東日本大震災の大津波で発生した福島第一原発事故によって、避難を余儀なくされた中学生と、音楽教諭の小田美樹によって作られた合唱曲です。津波の犠牲者2名を除く大半の中学生は小高中学校を離れ、北海道から九州まで全国に離れ離れになってしまいました。
 再会を夢見て「また 会おう 群青の町で」と中学生が歌い多くの人々に感動を与えた曲です。

演奏曲目歌詞カード
 歌詞カードというには12ページにも及ぶ立派な歌詞集です。当然JASRACの許諾が必要ですのでそれなりの経費が嵩んでいます。トルミス、パミントゥアン、その他アラカルトで歌われた外国語はいずれも馴染みが薄いものばかりですから、聴衆にはたいへんありがたいものでした。


※ 第17回演奏会は、201885日(日)、今回と同じく文京シビックホール大ホールで開催予定です。




【関連資料】
      「お江戸コラリアーずを聴く」201384日)




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