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選手の責任と、監督の責任



加藤良一
 

 
 

いま、有明コロシアムと有明テニスの森公園で、フェド・カップ2003アジア/オセアニア地区予選が展開されている。この大会には、日本、韓国、中国、インド、ニュージーランド、オーストラリアなどアジア/オセアニア地域から15カ国が参加している。

 日本テニス協会では、メールマガジンTENNISFANを通じて試合の結果を流しているが、今日受け取った最新号に興味を惹く記事があった。「団体戦での選手の責任と、監督の責任」と題するもので、日本代表の小浦武志監督のインタヴューを紹介している。
 やはりと感心したのは、フェド・カップ開幕1週間前から、選手はナマの魚を食べていないということ。食事は厳しく管理され、安全で正しい食生活が義務づけられている。日本チームは、アメリカ遠征から帰ってきたばかりで、フェド・カップ開幕までにやるべきことは、第一にフィジカル面の準備、つまりコンディショニング。具体的には、まずはしっかり食べることと、しっかり寝ること。これが選手の責任において最低限やるべき準備だ。
 第二がメンタル面の準備。今回、選手たちはみな、アメリカ遠征でいい成績を残して帰ってきた。こういうときに怖いのは、自分の庭といってもいいような有明に帰ってきたのによそいきのテニスをしてしまうこと。アメリカでの結果にとらわれて、日本のファンの前でいいプレーをしなければならないと考えてしまう。だから小浦監督は、選手全員に「フォーマルドレスを着てやるなよ、カジュアルでいこうよ」と言った。
 こうしてフィジカルとメンタル両面の準備をしておけば、テクニック面でもふだんの技が出せる。あとは、ベストのプレーをすること、最善を尽くすことだけが選手の責任。勝利という責任は選手が負うべきではない。結果に対する責任は監督が負えばいい。

 会社がつぶれたら、悪いのは社員ではなく、社長の責任だろう。監督は「この役割分担をはっきりさせよう」と選手に言った。だから、「おまえが負けたから、チームが負けた」という言葉は、このチームでは絶対出てこないそうだ。
 「チームの和」という言葉があるが、団体戦とは『和』ではなく『積』で決まるもの。4人の選手の和は、1+1+1+1で4。しかし、積なら1×××1で、答えは1。もし0.8の選手が1人いたとすれば、『和』なら答えは3.8だが『積』とすると0.8になってしまう。団体戦というのは、そういうもの。

 団体戦とはいえ、やはり最後は個人と個人の戦い。だから、誰か1人が体調をこわして0.8の力しか出せないというのでは困る。必ず1の力を出すというのが選手としての最低限の責任となる。できれば1.1の力を出してほしい。いまの倍、努力しようなどとしたら、三日坊主という言葉があるようにせいぜい3日しかもたない。だから1.1倍の努力だけでいい。1.1の4人の積でいいのだ。
 『和』ではなく、『積』が重要だという発想はとても面白い。『和』では、力を出せないものがいてもあまり目立たないが、『積』として捉えると、全体の中における個人の力がいかに影響力のあるものかよく理解できる。

(2003年4月25日)

 






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