K-44






はじめての談志×これからの談志



舞台の上を高座に見立て、スクリーンに映像を写す


 
加 藤 良 一   



 岩波書店の広辞苑が十年振りに改訂され、第七版として
20181月に発売されるというニュースが流れました。新語などに混じって新たに「立川談志」という項目が追加されるらしいです。まだ見ていないのでなんと書かれているものやら見当が付きませんが、それなりに名人だとか説明しているんでしょうかね。
 私の持っている第五版(1998年)には、「たてかわ【立川】」の項目がありますが、そこには次のような説明がされています。

 姓氏の一、 ─・えんば【立川焉馬】うていえんば(烏亭焉馬)。 ─・りゅう【立川流】江戸時代の建築彫刻の宮彫の流派。宝暦の頃に信濃国諏訪の人立川和四郎が大成。


 
ここでは立川流とは彫刻の流派で、落語の一派だとは書かれていませんね。かすかに、江戸時代後期の戯作者・浄瑠璃作家烏亭焉馬が、落語中興の祖だと触れているていどです。焉馬は、和泉屋和助の通称のほか、住まいの相生町の堅川をもじった「立川焉馬」や、親交のあった五代目市川団十郎をもじって「立川談洲楼」または「談洲楼焉馬」と名乗ることもあったとか。
 落語家は次々と名前が変わるので詳しいことはなかなか分からないけれど、たぶん「立川焉馬」と「立川談志」は直接にはなんの関係もないはず。

 さて、落語立川流家元・立川談志師匠が亡くなったのは2011年のこと、享年75歳でした。もっとも談志にかぎっては「亡くなった」じゃなく「死んだ」のほうがしっくりしますね。

          水仙花談志が死んだ完成す(すいせんかだんしがしんだかんせいす)


  
談志は戒名を生前自分で決めてました。自前の戒名ですから、もちろんお布施不要、タダに決まってます。生前から「葬儀もいらねえ、お経もいらねえ」と周囲に言い伝えていたといいます。この点はぼくの信条と一致しています。戒名をみればその人柄がわかるってもんです。談志はそれこそ勝手家元を名乗ってたわけですからね。写真にもあるように談志は一種独特の仕草をします。かなりどぎついこともあたり構わず喋りまくりますから、人によっちゃあ好みが大きく分かれる噺家でしょうかね。あれだけアクの強い噺家はもう出て来ないかもしれませんね。。

 たてかわ  うんこくさい  いえもと  かって   こじ
立川雲黒斎家元勝手居士
 

 2017年正月明けからWOWOWで『はじめての談志×これからの談志2017』と銘打った立川談志の特集が放映されました。
 「はじめての談志」とは、談志本人を知らない若い人がこんな噺家がいたのかと初めて出会ってもらうこと、「これからの談志」とは、もう過去の人ではあるが残された映像遺産がどんどん公開され、また新たな談志の魅力に出会うかもしれないというようなことだったかな…? ちょっと怪しいが、まあいいでしょう。

 談志は噺家のなかでもとりわけ映像記録を残すことに熱心でした。そのおかげで貴重な映像が大量に残されているんです。


 一回目の放送は12日からスタートし、「らくだ」、「千早ふる」、「粗忽長屋」、「芝浜」、「木乃伊取り」、「文七元結」、「権助提灯」、「居残り佐平次」、「へっつい幽霊」、「紺屋高尾」、「大工調べ」、「富久」といった談志の十八番といわれる演目やDVD未公開作品が紹介されました。

 WOWOWの番組録画撮りのための特別試写会は、2016年の暮れ、渋谷のユーロライブというところで開かれました。視聴者を招待するというので物見遊山気分で見物してきました。中身は試写会とそれに続くトークショーという流れで、上映されたのは、放送初回の分で、初公開の「らくだ」(2003104 東京 三鷹市公会堂)、そして「千早ふる」(2007619 東京 西新井文化ホール)の2演目でした。談志晩年の名品といわれる2003年の「らくだ」は、談志67歳のときのものです。

 らくだ」は上方落語の名作です。談志はこの話に魅せられ若いときから得意にしていた演目です。手の付けられない乱暴者の「らくだ」という男がオンボロ長屋に家賃も払わずに居座っておりました。長屋の連中は、らくだ」という名前を聞いただけで震え上がるほど恐れられていました。あるとき、「らくだ」は弟分が死んじまったので葬式を出そうと考えますが、もとより金目のものなんぞありゃあしませんから、通りがかりの気の弱い屑屋に無理難題を押し付けて葬式の準備をするというはなしです。屑屋の男を脅して近所から酒や肴をふんだくって来させ、それで酒盛りをしているうちに酔っぱらってきた屑屋がだんだん強気になって立場が逆転してしまいます。

談志は、従来乱暴者でだらしないと思われていた「らくだ」の孤独とか悲しみ、心情まで描写して見せています。談志の話しっぷりがまた凄い。まさに立て板に水です。息もつかせぬ速さでまくし立ててゆき、まるで客に挑戦でもするかのごとく迫ってきます。まだ聴いたことがない方はぜひ一度ご覧になってみてください。Youtubeにいくつも出ています。


 トークショーは、上映の前後に談志について語るもので、出演はサンキュータツオさんと春日太一さんのお二人。
 サンキュータツオさんは、お笑い芸人もやる日本語学者というちょっと変わったお方です。「米粒写経」とかいう漫才コンビのツッコミ役とのこと。一橋大学非常勤講師、早稲田大学大学院 文学研究科 日本語日本文化専攻課程 修了、そして博士後期課程 単位取得 満期退学!というわけのわからない人物。芸人活動とお笑いの学術的研究の両方が本業とか。
 春日太一さんは、映画史・時代劇研究家、日本大学芸術学部卒、卒論テーマは『仁義なき戦い』。卒業後は大学院へ進み、こちらは一応芸術学博士号を取得しています。
 このお二人は心底立川談志に惚れ込んでいる様子でした。観客もそれぞれ談志に思い入れがある人が集まっているわけですから、みなさん興味津々の面持ちでトークに耳を傾けていました。


【関連コンテンツ】
    (K-42)「すいせんかだんしがしんだかんせいす
(2016年11月11日) ←内容がちょっとかぶっているけどいいでしょう…


 2017年10月27日

 



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