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わかりやすさ宇宙一

     
人工股関節全置換術のはなし


加 藤 良 一 

2017年10月18日




 足腰の関節痛で悩んでおられる方は身の回りにもたくさんおられます。症状や痛みの程度は人さまざまですが、少しでも改善してQOLを向上し、豊かな生活を送れるようにしたいものです。

 変形してしまった股関節(変形性股関節症)を人工の関節に置き換える手術は、その素材や技術の改良によって相当進歩しているようです。ひと昔前までは、人工関節が長期間の使用に耐えられないため、何年か後に再度やり直さないといけないという問題がありましたが、現在では長足の進歩を遂げています。右の図は一般的な人工股関節の構造です。

 いっぽう、人工関節以外に自分の骨を切って整える骨切り術という方法もあります。この方法は関節の損傷がさほど進んでいない場合に適用されるもので、骨を削って関節の向きを矯正します。しかし、この方法では老化やその他の要因で関節の損傷が起きることまでは防げないので、あくまで暫定的な処置ということになるのでしょうか。今では減っているようです。

 私の知っている現在70歳代の女性のケースでは、今から30年ほど前の40歳代のときに左股関節の異常を訴え受診しましたが、まだ若いという理由で人工関節ではなく、骨切り術を施されました。しかし50歳代になってから再び症状が悪化し、再度手術しましたが、その時には年齢を考慮してか人工関節が挿入されています。その後60歳代で反対側の右股関節手術も受けました。そちらは最初から人工関節となりました。

 最新の<整形外科看護>(201711月号:メディカ出版)という医学雑誌に、人工股関節全置換術の詳しいことが紹介されていました。この本は医療関係者向けの医学誌です。やや専門的な内容ではありますが、「
わかりやすさ宇宙一! Dr.イズミのTHA(人工股関節全置換術)誌上セミナーと銘打っているように、平易なことばで要点を簡潔に述べ、図や写真を駆使してあたかもセミナーを進めるように、素人でも分かりやすいよう丁寧に書かれています。痛む股関節を抱えてどうしてよいものか悩んでおられる患者さんにも適切な情報を与えてくれるものです。
 因みにTHAとはTotal Hip Arthroplastyの略です。ヒップというとお尻かと思ってしまいますが、英語では骨盤や大腿骨を含む腰全体のことを指すんですね。
 この手術法は1960年初頭に開発されたものです。股関節症の進行期から末期の場合に用いられ、痛みを除く効果が高いことと、関節の機能が温存されるなどのメリットがあります。いっぽうデメリットとしては、脱臼や弛みあるいは感染などの可能性もあるといわれています。

 この誌上セミナーは、さいたま赤十字病院整形外科副部長 亮良(いずみあきら)医師の執筆になるもので、変形性股関節症の発症機序、そこから人工股関節全置換術に至る過程、手術の実際、術後の合併症、脱臼、血栓症、神経障害など一連の項目を網羅しています。また、実際の手術場面やどのように脱臼が起きるかなどを示した動画もネットで見られるようになっています。

 泉医師は、動画の制作にあたってはずいぶんご苦労されたようです。執刀医の目線から見た患部がよく見える画像を撮るには、できれば頭にカメラを取り付けたりするのがよいのでしょうが、そうではなく別の人に撮ってもらうならば、術者が体をよけて撮影してもらうなど工夫しなければならなかったでしょう。それなりに時間も掛かったことと思います。

 人工股関節全置換術では、腰のどの部分からメスを入れるかというアプローチ法(進入法)について、大きく分けてつぎの3種類があると紹介されています。つまり、前方アプローチ前外側アプローチ後方アプローチで、それぞれ切り開く筋肉が異なるため、それぞれメリット・デメリットがあることを明らかにしています。

  • 前方アプローチは、股関節周囲の筋肉を傷めない、歩行能力の早期回復が望める、仰臥位(あおむけ)で行うためカップの設置エラーが生じにくいなどのメリットが上げられます。いっぽう、デメリットは大腿骨の操作が困難、高度の変形例には適用しにくい、術式に対する習熟期間を要する、神経麻痺のリスクがあるなどです。
  • 前外側アプローチのメリットは、前方アプローチとほぼ同じで、進入するときに切る筋肉部位がやや異なります。デメリットは、前方アプローチほどではないものの大腿骨の操作がむずかしいことです。
  • 後方アプローチのメリットは、側臥位(横向き)で手術する、経験の少なくても対応しやすい、高度の難症例にも使える、大腿骨の視野がよく確保できるので操作が容易などがあります。デメリットは、大殿筋へ侵襲するため回復に不利、カップの設置位置不良が生じやすい、後方脱臼を生じやすく、動きが制限されるなどです。

悩める患者にとって、どんな手術が行われるかは最大の関心事です。病院や担当医師によってやり方がちがうと聞かされれば、不安が先立ちます。追いかけるように、同じ病院の中であっても、医師によってやり方が異なることがあるくらいですから、病院がちがえばやり方もちがうのはよくあることです。さらに人工股関節の素材もさまざまなものがあります。

 手術を受けようとする病院がどのような方法を採用しているのかは、調べればわかると思います。また術前に担当医に確認できることだとも思いますが、一般的には手技について何の知識も持たない患者の立場から選べるものではないでしょう。それでもせめてどの手技によるものなのかくらい知っておくことは無駄ではないと思います。

 人工股関節はできれば避けたいものです。変形症状が軽いうちは温存する方法もあるでしょう。しかし、症状が進んでしまった場合には、無理せずに手術を受けるに越したことはありません。


参考情報:体験談】  「激痛が1日で消えた! 私の右人工股関節手術」

 




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