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 ・全日本合唱連盟のこと
 

新 祖 章


20191214


 最大のイベント 全日本合唱コンクール
 全日本合唱コンクールは、全日本おかあさんコーラス大会と違って、全国すべからく県大会、支部大会を経て代表が選ばれ、全国大会で演奏を競い合う。部門は中学校部門、高等学校部門、大学職場一般部門に分かれており、令和元年(2019)から小学校部門もスタートした。
 合唱コンクールとしては、小中高ではNHK学校音楽コンクール、小中ではTBSこども音楽コンクールなどが全国的な規模で行われているが、大人の団体も含めて実施されているコンクールは他にはない。大学職場一般部門は、平成24年(2012)までは大学部門、職場部門、一般部門とそれぞれ別の部門だったが、平成25年(2013)から3部門が統合され、今の形となった。部門の中の区分として大学ユース合唱、室内合唱、 同声合唱、混声合唱の4つの部のいずれかにエントリーして競い合うことになっている。

 埼玉県勢については、最もハイレベルなのが高校で、ここ全国大会には必ず複数の合唱団が全国大会に駒を進め、全国1位に与えられる文部科学大臣賞も過去にいくつかの学校が受賞している。中学校も高校ほどではないが、全国大会に必ずどこかしらの学校が出場し、活躍している。反面、一般の合唱団はイマイチで、平成30年(2018)は残念ながら全国大会にはどこも行くことができなかった。加盟団体数が東京に次いで多く、合唱王国と言われている埼玉だが、一般の合唱団のレベルアップが今後の課題の一つと言えよう。

 平成30年(2018)の全国大会大学職場一般部門は、11月下旬に札幌コンサートホールKitaraで開催された。このホールは音楽専用に造られただけあって、全国でも屈指の響きの良さを誇っている。前日の全日本合唱連盟の理事会に出席したことから、そのまま札幌に留まり、大学ユース合唱、室内合唱、同声合唱を聴いた。ちょうど、前日に札幌で初雪が降ったため、道が滑りやすく、会場にたどり着くのが大変だったが、さすがに全国各地から選ばれた合唱団だけあって、どの団も素晴らしい演奏であった。ある意味、大学職場一般部門の全国大会は、聴衆を魅了させる演奏会としても随一ではないかと思う。
 出演した団体の演奏を聴いた中で、常連団体に共通して言えることは、会場となるホールでの音の響かせ方が非常にうまいということだ。ステージのどこに、どのようにして立てば綺麗に響かせることができるかをよく心得ている。そこで、意外に思ったのがフォーメーションだ。埼玉第九合唱団は、通常客席から見て左側(下手側)からソプラノ、アルト、テノール、バスと並ぶか、男性を中に入れてソプラノ、テノール、バス、アルトと並ぶかのどちらかである。しかし、彼らの場合は総じて下手側にソプラノ、その後ろにバス、上手側にアルト、その後ろにテノールが並んでいる。そのせいか、響きが立体的に聴こえてくるのだ。ホールの構造と相まって、特にルネサンスの曲などには効果的な気がする。こういう並び方もあるのかと感心していたら、ある全日本の役員から、最近ではコンクールなどではこちらの方が一般的だと言われてしまった。時代の流行というものもあるのかもしれないが

 全日本合唱コンクールも平成30年度(2018)で73回を数え、合唱人口の減少や教育環境の変化等の中で様々な問題が生じている。現在、全日本合唱連盟の中にコンクール規定改正の小委員会が設置され、私も立場上その委員を仰せつかっているが、今後規定の大幅な改定を行う予定である。

 若人の祭典 JCAユースクワイア
 全日本の主催事業の最後にJCAユースクワイアを紹介しよう。この事業は若き合唱人のための音楽プロジェクトで、海外から招聘した有力な合唱指揮者の下、キャンプなどで多様な合唱音楽を学び、その成果をコンサートで披露しようというもので、毎年3月に行われる。JCAは言うまでもなく全日本合唱連盟のことで、2030代の合唱団員を日本全国から募集し、オーディションを行って毎回約50名の合唱団を組織する。つい先日、8回目のプロジェクトが終了したばかりだ。
実は、第6回のときは埼玉県で行われた。我が埼玉第九合唱団が時々利用するが県民活動総合センター(けんかつ)で34日の合宿練習を行い、その成果をさいたま芸術劇場で披露した。たまたまそのときけんかつが私の職場の本所だったこともあり、埼玉県での開催を全日本に働きかけ、実現したもので、あのとき若い人たちの合宿練習にお付き合いさせていただいたことは今でも思い出深いものがある。第9回は令和2年(20203月に長崎で行われる予定だ。

 合唱専門誌 ハーモニー
 全日本合唱連盟における行事以外の事業として第一に挙げるとすると、「ハーモニー」誌の発行がある。春夏秋冬の年4回季刊誌として発行されている「ハーモニー」は、全日本合唱連盟の会報であるとともに、日本で唯一と言ってもいい合唱の専門誌である。「ハンナ」とか「ショパン」といったような音楽関係の雑誌で、合唱関係の記事を掲載することは結構あると思うが、合唱に特化した雑誌というと、残念ながら「ハーモニー」以外には見当たらない。発声の技法や合唱曲の解説など合唱に関する専門的な情報を得るにはもってこいだ。
 また、「ハーモニー」の中に「支部のページ」というのがあり、全国9支部ごとにページが割り当てられて毎回各県の活動を紹介しており、そのとりまとめを私の方で担当している。ただ、連盟の会報という立場から、どうしてもコンクールやおかあさんコーラス大会などの行事にかかわる記事に偏りがちになる。もう少し全国の合唱団の活動が紹介されるような誌面づくりを私としては期待しているが

 「ハーモニー」は、現在加盟団体に各3冊(中学校関係は1冊)購入が義務づけられており、埼玉県連では加盟費の中にその金額も含めている。埼玉第九合唱団では役員の配慮で、新刊が発行されると、練習の際の受付机の上に閲覧自由で置かれていることがあるが、当団のような大人数の合唱団では、なかなか全員が目に触れる機会は持てないと思う。個人的に購読を希望する場合は、埼玉県連に申し込めば直接送ってくれるので、読んでみたいと思う方は申し込んでみたらいかがであろうか。

 若手作曲家の登竜門 朝日作曲賞
 合唱組曲作品公募は、朝日新聞社との共同事業で別名「朝日作曲賞」と言われている事業であり、いわば合唱曲作品のコンクールと言える。
 曲の形式は合唱組曲で、演奏時間は15分以内。その中に全日本合唱コンクールの課題曲となることを想定したもの(34分の曲)を1曲以上入れなければならない。歌詞は自由、既存の詩人の作品でもかまわない(著作権のあるものはその了解が必要)。編成は、混声でも女声でも男声でも可。ただし、未発表のオリジナル作品でなければならない。毎年2月に応募受付を行い、5人の審査員で審査を行うが、その方法はまず譜面審査で何曲か候補曲を選び、その後演奏審査により朝日作曲賞1点及び佳作1点を選定する。賞金として朝日作曲賞には100万円、佳作には10万円が贈られる。
 表彰は、毎年11月に行われる全日本合唱コンクール・大学職場一般部門の中で行われ、朝日作曲賞に選ばれた作品の中から翌年のコンクールの課題曲の一つが選定されることになっている。
 まさに、合唱曲を作ろうという若手作曲家の登竜門になっているわけだが、ここ平成29年(2017)、平成30年(2018)と続けて埼玉県在住の若手作曲家(17年:首藤健太郎−さいたま市、18年:川浦義広−ふじみ野市)が受賞しているのは喜ばしいかぎりだ。現在、合唱界で人気絶頂の作曲家信長貴富氏も、学生時代から朝日作曲賞を何回か受賞しており、その頃は埼玉県鶴ヶ島市に住んでいた。朝日作曲賞は、当初は受賞してもまた応募することができたのだが、途中から受賞者(佳作は除く)は再度応募することができなくなった。そのきっかけを彼が作ったと言われている。信長氏は上智大学を出て世田谷区役所に勤めたが、学生時代から独学で作曲を勉強し、今では誰もが認める人気作曲家になった。実は、彼は私が通った高校の自慢の後輩でもある。


合唱なんでも相談 音楽資料室

 地味ではあるが、全日本合唱連盟が他に誇れる事業として音楽資料室の運営がある。音楽資料室は昭和54年(1979合唱センター資料室という名称で渋谷区恵比寿の民間ビル内に開設されたが、平成25年(2013年)の全日本合唱連盟事務所移転に合わせてそこを引き払い、現在は朝日新聞東京本社内の事務室に併設されている。
 所蔵資料は、楽譜約28,700冊、図書約1,700冊、CD5,800点、カセットテープ約1,300点、演奏会等のプログラム約1,800点、合唱・音楽関係の雑誌約40タイトルなどのほか、各種の情報、展示等を通して国内外の合唱関係資料を紹介している。また、音楽図書館協議会(MLAJ)メンバーとして、他の音楽関係の図書館や芸術文化団体、教育機関との交流、相互協力に取り組んでいる。
 所蔵資料はすべて自由に閲覧することができるし、CD、カセットテープの試聴も可能だ(デッキ利用は有料)。レファレンスは来館時だけでなく、電話・手紙・FAXE-mailでもOK。「合唱なんでも相談室」と称して専門家に相談できるサービスも行っている。CD等は、実は全国各地の合唱団から寄贈されたものがかなりの割合を占めており、埼玉第九合唱団も以前は周年事業などで作成したカセットテープやCDを寄贈していた。

 令和元年度(2019)の主な活動として、音楽資料室ではLPレコードの所蔵整理や、所蔵資料のうち、閲覧に供するため演奏会のプログラムや合唱コンクールのCDなどのデジタル化を進めている。
 音楽資料室の開館時間は月曜日から金曜日までの13時〜1730分(電話受付も同様)。
 休館日は土曜日・日曜日・祝日・毎月末・年末年始。
TEL 03-3547-5141FAX 03-3544-1964

 世界とのつながり 国際委員会

 全国組織としての全日本合唱連盟に欠かせない活動として、IFCM(国際合唱連合=International Federation for Choral Music)国際委員会の活動がある。この国際組織は、昭和57年(1982)に創設されたが、全日本合唱連盟はその創設メンバーで、現在、長谷川冴子副理事長が理事を務めている。
 主な主催事業としては、3年に1度開催される「世界合唱シンポジウム」、若い合唱人を育てる「世界青少年合唱団」、要請に応えて合唱指揮者を派遣する「国境なき指揮団」、新しい合唱作品を開発する「作曲コンクール」、世界各地の合唱団が合唱を通して相互理解の大切さを発信する「世界合唱の日」などがある。

 「世界合唱の日」は、毎年12月の第二日曜日と定め、12月に開催されるコンサート、合唱祭、講座などすべての合唱の催し物を対象として、世界中の合唱団に「世界合唱の日」への参加を呼びかけている。参加方法は簡単だ。インターネットで「世界合唱の日」のサイトにアクセスし、事前登録をして、催し物当日に下記の声明文を読み上げるなど何らかの形で紹介すればよい。12月はちょうど第九演奏会が行われる月。埼玉第九合唱団でも「世界合唱の日」への参加を検討してみてはどうだろうか。

声明文〜全文> 詳しくは こちら をご覧ください。

歌え! 世界中の合唱団よ
あなたの歌声が燃え上がる炎に降り注ぐ 泉となるように
歌声がバラの花束のごとく 戦地に届くように
畑を起こし 愛の種をまき 希望の果実を収穫できるように

歌え! 独裁の地では自由のために
歌え! 貧困の地では平等のために
歌え! 愛が憎しみに勝るために

あなたの歌声が世界を導くだろう
平和が戦争に打ち勝ち
皆がこの大地をいつくしみ
人種や肌の色による差別をなくし
私たちは兄弟のごとく共に生きる
そしてこの星は歌声にあふれ歓喜するだろう

※「あなたの」を「私たちの」にしても可。


以 上

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<著者略歴>  新祖 章
 1952年東京都生まれ。中学校、高等学校、大学と合唱活動に取り組む。1974年埼玉県職員となり、1975年東京都中野区から埼玉県浦和市(現さいたま市)に転居。
 1977年埼玉第九合唱団入団。1979年同団事務局次長、その後事務局長、副団長を経て1987年団長に就任。その後30年団長を務め、県職員との二足のわらじで活動。県では、音楽イベントのアドバイザーを務める中、2002年のFIFA日韓ワールドカップの際には、日韓合同の第九演奏会を企画運営し、成功を収める。この功績により、県から職員表彰を受ける。
 1987年埼玉県合唱連盟理事。その後、事務局長、副理事長及び全日本合唱連盟関東支部運営委員を歴任。
 現在、埼玉県合唱連盟参与、全日本合唱連盟関東支部事務局長、埼玉県文化振興基金助成審査委員会委員。宮代町代表監査委員。
   
(この記事は、埼玉第九合唱団の機関紙「たびだち」に掲載したものを整理し再掲しています)
 



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