M-167

 全日本合唱連盟のこと
 

新 祖 章


2019125


 

【はじめに】
 全日本合唱連盟は、正式には「一般社団法人 全日本合唱連盟」といい、築地にある朝日新聞東京本社内に事務所を構えている。以前は「社団法人 全日本合唱連盟」と称したが、民法の法人制度改革の中で一般社団法人となった。本来なら公益法人を目指したいところだが、公益法人になるにはいろいろハードルが高く、ひとまずは一般法人に甘んじているというところか。
 また、朝日新聞社の中に事務所があるのは、1948年の創立当初から物心両面で同社に支えられているからだが、同様に朝日新聞社の支援を受けている吹奏楽連盟や高校野球連盟と違って財政的には必ずしも恵まれていないことから、独自に事務所を構えるには難があり、いまだにおんぶにだっこ状態が続いている。
 1948年の創立とは、まさに戦後間もなくのことであるが、実は関東支部はそれより2年早い1946年に関東合唱連盟として設立されている。まさに戦後の焼け跡の中で産声を上げたのである。関東だけでなく、関西や九州にも連盟が設立された。日本各地で前向きに生きようとする人々の間に自然発生的に広がった歌声の輪が各地での連盟組織の設立につながり、その集大成として全日本合唱連盟が確立されていったわけである。「歌声は平和の力」とよく言うが、この時代では「生きる力」でもあったのだ。

 合唱連盟でいちばん有名な行事というと、やはり合唱コンクールということになろうが、関東支部が主催する支部大会は、「73回関東合唱コンクール(第71回全日本合唱コンクール関東支部大会)」と常に併記する。全日本より先に関東合唱コンクールが始まったのだという矜持とともに。


【組織体制】
 全日本合唱連盟(以下「全日本」という。)では、毎年11日付けで加盟団体数及び人数の調査を各正会員に対して行っている。正会員というのは定款上、社団法人としての全日本を構成するメンバーで、北海道を除く46都府県の合唱連盟理事長及び北海道の8地区の合唱連盟理事長、合わせて54名いる。つまり、全都道府県を包括する組織なのではあるが、残念ながら市町村の連盟組織には加盟しているものの都道府県レベルには加盟していない合唱団も数多く、すべての合唱団に影響を及ぼしているとは言いがたい。それでも2018年の1月1日現在、5,081団体、約125,000人を要する大きな組織である(もっとも、一人で複数の合唱団に入っている人も少なくないので実人員はもっと少ないと思うが)。
 そして、その正会員を地域別にまとめて、北海道、東北、関東、東京、中部、関西、中国、四国、九州の9つの支部を設けている。支部と言っても前回紹介した経緯から予算的には独立しており、お金の面で全日本の縛りを受けることはない。また、東京支部=東京都連であるのに対して、関東支部は東京を除く関東地方6県(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川)と新潟、山梨、静岡の9県で構成されているのも歴史的な経緯からきているのだと思う。
 全日本の中で、最も加盟団体の多いのが東京都連盟で451団体、次いで埼玉336団体、神奈川311団体と続く。最も少ないのが小樽地区連盟の15団体、函館、室蘭、北見も20団体に満たない。おおみや合唱協会の半分以下である。支部では私の勤める関東支部が1,370団体とダントツである。

 残念ながら、ここ数年の推移を見ると高齢化などの影響により、加盟団体数は漸減傾向にある。今こそ、新制合唱連盟を作り上げるために、これまでの事業の見直しも含めて合唱のすそ野を広げていく取り組みが求められているのではなかろうか。 


【主な事業】
 全日本では、季刊で機関誌「ハーモニー」を発行している。合唱連盟に加盟するとどこの県でも何らかの形でこの機関誌の購読が義務づけられる。そのことの是非はさておいて、「ハーモニー」は合唱連盟の機関誌であると同時に、合唱の専門情報誌という側面も持っており、合唱関係の多彩な情報が掲載されている。私に言わせれば、もう少し全国各地の合唱団の活動が紹介されるとよいと思うのだが、当然のことながら、全日本の主催事業は予告から実施結果まですべて掲載される。個人購読を希望する場合は、直接全日本に申し込むことも可能である。年間購入も一冊単品購入もできる。


【コーラスワークショップ】
 では、全日本の主催事業について、2018年度を例に順を追って紹介していこう。まず、毎年5月の連休中に開催されるコーラスワークショップ。2018年度で28回を数え、53日から5日まで広島市で開催された。
 海外からも含めて第一線で活躍する指揮者や作曲家を講師に迎え、各種の講座を開催するとともに、海外の合奏団やプロ演奏者の演奏も聴くことのできる多彩なプログラムとなっている。小学生から若者、熟年世代まで、合唱を楽しめるイベントである。
 開催地については、他の事業もそうだが、9支部のいずれかが主管を引き受け、実質的には開催県の合唱連盟が主管として全日本と連携しながら、事業の準備から実施まで中心になって動かなければならないから、当該連盟は大変だ。


【全日本男声合唱フェスティバル】
 2018年度は第7回として630日、71日の2日間、静岡県伊豆の国市で開催された。全国から22団体が集結し、2日目の演奏会で日ごろの練習の成果を発表するだけでなく、1日目には、3人の男声合唱指導者が講師となり、出演する合唱団が3つに分かれ、それぞれの教室で23の曲を仕上げ、演奏会の際に合同演奏を行った。
 1日目の夜は前夜祭と称して、一堂に会し酒を酌み交わしながら男声合唱の定番曲を次々歌うのもこの行事の醍醐味だ。残念ながら2019年度はお休み。2020年度から再開され、長野県で開催予定だ。


【おかあさんカンタート】
 男声合唱フェスティバルに続いて行われたのがおかあさんカンタートで、2018年度は721日〜22日の2日間、仙台市での開催となった。この行事はおかあさん方を主な対象とした講習会で4人の講師がそれぞれのテーマで教室を主宰し、その成果を2日目の全体会で披露するものである。1日目の夜には「ザ・パーティー」と銘打って交流会も行われた。


【こどもコーラスフェスティバル】
 全国から児童合唱団や少年少女合唱団が集う行事で、84日〜5日、京都市で開催された。こちらもやはり4人の講師がそれぞれの選曲のクリニックで教室を主宰し、その成果を発表し合うものだが、成果の発表はそれぞれの合唱団の演奏の間に行われることが特徴だ。そのほか、指揮者のためのセミナーや、初めて合唱をやるこどもたちのための教室も設けられた。この行事も、残念ながらこれまで協賛してくれたスポンサーが撤退してしまったこともあり、2019年度はお休みとなる。


【全日本おかあさんコーラス大会】
 この大会は、建前上は県大会、支部大会を経て代表が選ばれ、全国大会が行われることになっているが、県大会で代表を選び支部大会を開催しているのは9支部中関東支部のみで、他支部は「支部大会〇〇県会場」と称して実質的には県大会から直接全国大会の代表が選ばれている。(もっとも、北海道と東京は単独支部なので実質的には同じなのだが。)
 関東支部はもともとダントツに参加団体が多いのに加えて、そうした体制をとっていることもあり、関東支部内の県から全国大会の代表になるのはかなりの狭き門となっている。当然のことながら、全国大会に代表を送れない県も出てくるわけだ。2018年度は33日〜4日、和光市で行われた埼玉県大会を皮切りに、関東支部大会が埼玉県の所沢市で77日〜8日にかけて開催され、全国大会が825日〜26日に愛媛県の松山市で行われた。県大会から数えると半年に及ぶ長丁場だ。
 2018年度の全国大会には、私が所属する埼玉第九合唱団の女性団員で、おかあさんコーラスの団体に入っているメンバーも何人か参加したと聞いているが、大会前日に開かれるパーティに申し込みが殺到し、やむを得ず人数調整をしたという話も聞いている、しかし、近年団員の高齢化などで県や支部大会への参加団体が減少し続けており、今後いかに参加団体を増やすかが課題といえる。

    「続・全日本合唱連盟のこと」へ つづく


<著者略歴>  新祖 章
 1952年東京都生まれ。中学校、高等学校、大学と合唱活動に取り組む。1974年埼玉県職員となり、1975年東京都中野区から埼玉県浦和市(現さいたま市)に転居。
 1977年埼玉第九合唱団入団。1979年同団事務局次長、その後事務局長、副団長を経て1987年団長に就任。その後30年団長を務め、県職員との二足のわらじで活動。県では、音楽イベントのアドバイザーを務める中、2002年のFIFA日韓ワールドカップの際には、日韓合同の第九演奏会を企画運営し、成功を収める。この功績により、県から職員表彰を受ける。
 1987年埼玉県合唱連盟理事。その後、事務局長、副理事長及び全日本合唱連盟関東支部運営委員を歴任。
 現在、埼玉県合唱連盟参与、全日本合唱連盟関東支部事務局長、埼玉県文化振興基金助成審査委員会委員。宮代町代表監査委員。
   
(この記事は、埼玉第九合唱団の機関紙「たびだち」に掲載したものを整理し再掲しています)
 



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