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フランス 牡蠣 シャブリ

 


加 藤 良 一      2003年5月17日 
 


 

 もっともシンプルな食べ方が好まれる食材、そして白ワインに合うものといって真っ先に思いつくのは生牡蠣である。牡蠣は、砕いた氷を敷き詰めた大皿に殻ごと盛り付けるのがよい。 そこへレモン汁を垂らし、殻の中の汁もいっしょにすすり込む。相性のいいワインはシャブリに決まり。レモン以外にもワインビネガーとエシャレットを刻んだソース、トマトケチャップなどを入れたいわゆるカクテルソースで食べるのもよい。

 もう五月になってしまったから “You are now in (R) season” ではない。
 牡蠣は、SeptemberOctoberNovemberDecemberJanuaryFebruaryMarchAprilと、Rのつく月が旬。つまり秋ぐちから春先までの寒いうちが美味しい季節。牡蠣は、岩からかき落とす、殻をかき砕くとの意からカキと呼ばれるようになったという。
  シャブリのいいもの、とくにグラン・クリュの畑には、牡蠣の化石がおおく発見されている。牡蠣殻のミネラルをブドウが吸い上げ、それで牡蠣との相性が良くなるという寸法だ。あの香りは土壌から吸い上げられたミネラルが影響している。
 もうすこし知ったかぶりの理屈を披露しよう。グラン・クリュともなると、マロラクティック発酵の後、樽熟成されるものもあるが、それが牡蠣などの生臭さを消す作用を発揮する。牡蠣とワイ ンの相性ということでは、双方の成分が近いことがよいことになるが、牡蠣はシャブリよりグリ コーゲン、乳酸、コハク酸などが多いため、本来なら合わない。
 ところが、牡蠣にレモン汁(クエン酸)をかけると乳酸とコハク酸がマスキングされ、シャブリと の相性がほかのどんな組み合わせでもみられないハーモニーを生み出す。日本を代表するソ ムリエ田崎真也さんによれば、シャブリそのものがレモンの役割を果たしているという。シャブリはリンゴ酸が多く、これがレモンの役割をする。


 昨年の秋September、パリ・オペラ座の近くの海鮮レストランでこの組み合わせを楽しんだ。
 シャブリ・グラン・クリュは、けして安くないから話だけにしておいて、つぎのランクに位置するシャブリ・クリュを試したが、それでもじゅうぶん満足できるものだった。
 じつはフランスの牡蠣は、その昔なにかの病気で全滅してしまい、日本の三陸地方から種を移植して現在の隆盛を誇っているという。
  パリのレストランにいたときは、そんなことを知るよしもなかった。もしこの事実を知っていたら店の連中に自慢して、すこしは料金をまけさせたのに、ちょっとおしいことをした。

 

 




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