M-168


1年遅れのオーケストラ・プロジェクト2020
木下牧子サクソフォン・コンチェルト初演

 

加 藤 良 一   20216月25



 

 
202162日、東京オペラシティ・コンサートホールで、昨年上演が予定されていた<オーケストラ・プロジェクト2020>の延期公演が開かれ、松岡貴史、木下牧子、小坂直敏、水野みか子の四氏のいずれも初演が演奏されました。副題は「新しい響きの海へのいざない」。このコンサートは半年延期したものの、緊急事態宣言の中で、客席を50%に制限して開催されました。

 
木下氏は、開演に先駆け、作曲家ご自身が作曲意図を語るプレトークで、今回サクソフォンを使った理由としてつぎのようにお話になりました。  
 藝大ではピアノ科に入ってから作曲科に移ったが、その時はオーケストラしか目に入らないことが多かった。しかし、デュオの曲も書かねばならなくなったとき、高校時代に触れたことがなかった楽器サクソフォンに興味が湧き、ソナタ、そしてカルテットを作曲した。その後しばらくは書く機会がなかったが、今回オーケストラ・プロジェクトのお誘いがあり、あらためてサクソフォンの曲を手掛けることにした。

 
            <プログラム>

松岡 貴史
木下 牧子
小坂 直敏
水野 みか子

 指揮
アルト・サクソフォン
ピアノ
管弦楽

  オーケストラのための「新しい朝に」(初演
  サクソフォン・コンチェルト (初演
  ピアノ協奏曲 第2 (初演)
  Parva naturalia for orchestra (初演)

  角田鋼亮
  田中拓也
  小坂紘未
  東京交響楽団

 

<コンサート・フライヤーより>

 本企画は、4人が新作によりオーケストラの可能性を示します。松岡はオーケストラの響きに潤いのある深い内面性を追求します。木下はサクソフォンと管弦楽との関係の中で新たな響きをつむぎ出します。小坂は音響科学者として本年発見した音脈モワレという錯覚に関わる空間音響の新たな響きを求めたピアノとの作品、また水野は音色空間の動と静を七つの視点から追及していく交響的作品を発表します。
 コロナ禍が社会全体に多大な影響を与え、これまでのように前進し続けることにブレーキがかけられ、ディスタンスが必要となり、静まり、内省することによって新たな価値観や可能性が見出されようとしています。本公演も延期を余儀なくされ、演奏会の規模も制約を受けてのものとなりました。しかし、ここで作曲する意味を改めて問い直し、響き合い、心が通うコンサートにしていくつもりです。

 


<木下牧子サクソフォン・コンチェルト プログラム・ノートより>

 今回のサクソフォン・コンチェルトは全2楽章。静的な第1章と動的な第2章のはっきり打ち出し、サクソフォンの独自の音色の魅力と抜群の運動性を生かした作品を書こうと考えました。(中略)
(今回出品のお誘いがあり)初めて編成からトロンボーンとチューバを外し、すっきりコンパクトな2管編成(金管はホルン2、トランペット2のみ)によるコンチェルトを書いてみようと思い立ちました。サクソフォンは、大学入学時まず最初に熱中した楽器で、オーケストラの中でとりわけ引き立つ個性的な音色と抜群の運動性を持った楽器です。ソリストをお願いした田中拓也さんは、いま日本を代表する若手サクソフォン奏者のお一人で、今までにも新作初演やレコーディングで演奏頂いています。コンチェルトを書くなら、ぜひ田中さんにソロをお願いしたいと思っていたので、今回願いがかなって嬉しく思っています。

 

 第1楽章は、サクソフォンの豊潤で印象的な密度の濃い音でゆったりとはじまり、第2楽章では一転してスピード感を生かし曲です。あるサクソフォン奏者によると、サクソフォンのオーソドックスな旋律線と奏法によるもので、安心して聴けたとのことでした。

 

<オーケストラ・プロジェクトとは>
 オーケストラ・プロジェクトは、1979年東京文化会館で第1回を開催して以来、2021年で35回を迎えました。1回目は、西村朗、松平頼暁、水野修孝、吉崎清富の四作曲家の作品が、黒岩英臣指揮、東京交響楽団で演奏されました。当初は1~3年おきに開かれていましたが、1995年の第10回以降は毎年開催されています。
 年に一度、会員の中から4人の作曲家が集い、作曲家自身が自作の管弦楽作品を発表する場を自らが作るという主旨のもと、スタートしたといいます。その後、多くの作曲家の賛同を得て、隔年開催等を挟みながら40年以上も継続してきました。
 しかし、毎年4人の作曲家が作品を発表するというやり方が、2019年の第34回では、作曲家2人のみの異例の演奏会となってしまいました。木下牧子氏は、第25回(2010年)、第27回(2012年)、第31回(2016年)に引き続き、第35回(2021年)に4回目の出品となりました。

 
  【関連資料】
M-165木下牧子作品展5 オーケストラの時  (2019年7月3日)
M-147)木下牧子作品展4 ピアノ・プラス ─ピアノ回帰宣言─
 (20171018日)
M-136)脱「現代音楽」へ向かって オーケストラ・プロジェクト2016201697日)
M-128)木下牧子<もうひとつの世界> (20141124
M-127)贅沢なコンサート“The Chorus Plus II” (20141013
M-82) 〈現代音楽〉と〈現代の音楽〉 木下牧子作品展3 〔室内楽の夜〕 (20081011日) 

 
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